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ノベツマクナシ

低所得者層にいます

日記118 村上春樹短編タイランドについて

8月

セミの抜け殻を見つけるのが好きだ。地中から出てどこで羽化したのかを確認するたびに「こいつはさっさと済ませたな」「こいつはいい場所をだいぶ探してたな」「そこは逆に不安定だろ」と評価を下しながら職場へ向かうのがここ最近の決まりごとになっている。人が処女・童貞を失うタイミングを気にするように、セミも羽化するタイミングと場所をこだわっているようで面白い。羽が透明なセミの名前はなんだったか、なんにしてもあの羽はキレイだと思う。

村上春樹の短編をまた読み始めている。

昨日はアイロンのある風景を、今日はタイランドを読み終えた。
英訳されたものを勉強がてら読んでいるが、筋を知っているとスルスル読めてしまう。アイロン~~はすべてを捨てた女(と男)の話でタイランドは全てを飲み込んだまま生きてきた女の話。
タイランドはプールで泳ぐときに出てくる表現がスカッと抜けるようなさわやかさで素晴らしく、それ以外の場面は基本的にタイってこんななんだろうなあと思うようなこもった熱気とドロドロした土の臭いが漂っている。
主人公サツキは過去に捕らわれていることを認めながらも無視して生きていて、その姿に案内人兼運転手のニミットは同じように自分を見出し、先人として最善の処置をサツキに施していく。個人的に思うのは、サツキは捕らわれているというよりも、過去のある一点より何が起ころうと責任は自分にあるとみなして生きてきたように見える。
レズ風俗体験ルポ漫画にもあったように、自分を「大したことない・価値がない」扱いすると、そういう自己責任論にハマりやすくなる。基準となる自己に価値を見出せないために他人から自分へ向けられる好意も信じ切れず、作中冒頭でわかるサツキの離婚原因である妊娠の拒否も納得できるものになる。いやぁ~めちゃくちゃわかる。なんなら「サツキみたいにクールに生きたい」くらい思っちゃう。でもその行く末はニミットのような、肉体は生きながらも心はとうに動かなくなっているある種の完璧人間のようになってしまうんだけども。
ノルウェイの森といい、空間を限定するモチーフとして飛行機が使われるのはなんなんでしょうね。異国へ行くという行為とその過程がまず非日常的ってのはあるけど、妙にパキっとしているというか私の心に残るというか。1Q84も高速道路の非常階段を降りて別世界へ行き来したし、ねじまき鳥も井戸があったな。そういや昔PerfumeのSpending All My TimeのPVが公開されたとき、開くドアと開かないドアに村上春樹的なイキフンを感じ取ったのを思い出しました。ドアによって空間が2つに分断されたり1つに拡張されたりするのはコレコレこういう~みたいなことを2ちゃんねるのファンスレに書き込んで総スルー食らったんだった。