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ノベツマクナシ

低所得者層にいます

「弟の夫」 一般誌で表現できるゲイの限界

「弟の夫」はゲイ漫画界の第一線をひた走る田亀源五郎氏による、一般誌での連載作品である。漫画というアートとして評価されにくい分野において、一枚絵に対する書き込み量や話の展開、扱う題材の幅広さをもってフランスなどの諸外国からの評価を持って、サブカル系への売り込みを開始、国内外とわず個展を成功させ、本格的な「知る人ぞ知る漫画家」として現在も活躍している。

きのう何食べた?よしながふみや、あれよ星屑などで有名な山田参助といい、ゲイであることやゲイが描くことはなにかと話題になりやすいのもあるが、まさかこのマンガがすごい!にまで取り上げられるとは思いもしなかった。一般社会に存在する同性愛者に対して真正面から描こうとすると説教臭さやヒューマニズムによりがちになる。そこを避けると登場人物が基本的に優しい世界に生きるゲイ、つまりファンタジー作品になる。なにより、リアルさが無いと言い放つのは簡単だが、ゲイを扱った漫画に本格的なまでのリアルさは必要なのか?異性愛者には面白いと思ってもらえるのか?(ゲイである)私でも面白く読めるのだろうか?と不安がポンポンと浮かんできて、どうも手に取る気にはならなかったのだ。

だが、先日の台風により、漫画喫茶に一泊することになった際、新刊や話題の本が並んだコーナーにこの「弟の夫」が並んでるのを見て、今しかないと個室に持っていった。

以下あらすじ

異性愛者である主人公弥一は娘である夏菜と二人暮らしをしている。そこにマイクと名乗るカナダ人が、死んでしまった双子の弟の夫であると名乗り転がり込むことになる。

夏菜の子供らしさを通して「ゲイであるとはどういうことか」を説明させるシーンや、夏菜とその友達との会話で提起する「結婚するとは何か?」を問いかけるシーンのどちらも丁寧で、欠けている部分は恐らくない。

弥一にとって離婚した妻、双子の弟も等しく理解できなかった存在であることが劇中に何度か挟まれていて、まだ明かされていない弥一のこれまでがどうだったかへの想像をうまく掻き立てている。一方、主要な登場人物である弥一の娘・夏菜と弟の夫・マイクは最初から役割が決まっている。夏菜は子供であるということを持って、純粋に疑問をぶつけ、説明させることが出来るし、マイクは同性婚が可能な外国人であるということを持って、婚姻関係にあるゲイという設定を作ることができる。そしてなにより日本人ではなく別の世界の人間であるという、マンガ特有の都合の良さを持ち込むことが出来るからだ。マイクが日本人ならこう上手くはいかない。自分で認めるのも嫌だが、日本人にとって外国人(特に白人である)ということは未だにファンタジーなのだろう。

少しフォローするならば夏菜の存在でリアルなのは格好が異様に古臭いところ、あれは男だけで育ててないと不可能な感じがして良かった。おさげにした髪にプラスチックのボンボンがついた輪ゴムをつけるセンスは逆にリアルだなーと思う。夏菜は絶対にアイカツとかプリパラとか見てないはず。まぁ、他に登場する子供も等しく夏菜のような格好をしているので、恐らくそういう意味付けを持っての格好ではないのだろうけども。

都合がいいとは書いたものの、マンガとしては間違いなく面白い。青年向けと言うよりは大人向け。手塚治虫藤子不二雄が好きなら何の違和感も無く読めると思う。田亀氏が寄せた巻末コメントに長年書きたかったという言葉があるように堂々とした落ち着きっぷりを見せている。

私としてはこのマンガを読んだ時に「同性愛者を拒絶してはいけない、受け入れよう」などといった言葉が出てほしくない。現時点でいろいろなことが分かっていないとは言え、ゲイであることを賛美したり、同性愛者がいるということを現実的に考えられないのはイケないことだなんてこれっぽっちも描いていないからだ。

「どっちが女役をやるのか」といった勘ぐりをしてしまう弥一が抱える消化できない気持ちは後にマイクにより、「ゲイだから夫と妻じゃなくて夫と夫なんだよ」というシンプルで過不足のない説明がなされることで軽くなるが、この勘ぐってしまう心の動きと、知りたくもない・知る必要もないモノを見せられたような想像力の働きっぷりと自己嫌悪こそが1巻の核になっているし、弟の夫というタイトルに漂う余所余所しさにも似た雰囲気につながっている。

まとめ

異性愛者側から見る同性愛者への形容しがたい気持ちを物語の主軸に持ってきているのが印象的。理解できないものはやっぱり気持ち悪いと思うのは当然だし、そこからどう折り合いをつけていくかを描いてる漫画は私の中では初めてだと思う。何よりこのマンガの主人公は異性愛者だし、「理解できない」という点をしっかりと描いたことで、タダのゲイフレンドリーなマンガで終わらせない意気込みを感じた。

それにしても、マイクというキャラクターが一般紙で表現出来るゲイキャラクターの限界だとは思えない。田亀源五郎が書くのだから二巻以降で何かしらの変化があると信じている。あと、表紙をめくった時に出てくるご褒美グラビアは声を出して笑いそうになった。